その怒って怒鳴って毒を含んでいる”気”を目の前の相手が吸い込むと、気力も体も弱まるようになっています。したがって、微しく怒れば怒るほど、相手はどんどんエネルギーダウンしていくわけです。それによって「私」は、相手を言い負かしたり屈服させたりすることができるので、人間の身体機能の中に、毒物を作る機能が無くならないというのは実はそういう実利があるからです。しかし、じゃあ怒ればいいんだ、という結論ではありません。「奄美ハブセンター」に行ってみると、昭和35年頃にハブに噛まれた人の足の写真が展示されています。モノクロですが、あれがカラーだったらちょっと見られないようなすごいものです。ふくらはぎをカパッと噛まれ、一応すぐに毒を吸い出したけれども血清が間に合わなかったという人の写真で、ひざまでは肉がありますが、ふくらはぎだけホネのみの状態になっており、全部筋肉が溶けてしまっているというものがありました。ふくらはぎのタンパク質が溶けてしまったらしい。ハブの毒はタンパク質を溶かすということを頭に入れておいて下さい。ハブが作っている毒と、人間が体の中に持っている毒は同じものです。自分の体の中に、自分の意志で自分の機能で毒を作ると、その毒で相手を弱らせることが人間にもできるわけです。が、誰がいちばん被害を被るかというと、実は自分。腹を立てて怒って怒鳴っているときに猛烈な毒物ができますが、その毒物は実はタンパク質を溶かすものなのです。そして自分の五臓六腑(心臓、肺臓、肝臓、腎臓、脚臓が「五臓」、大腸、小腸、胆のう、胃、膀騰、三焦が「六腑」)は、当然すべてタンパク質でできています。怒ったとき、人間は自分が作った毒物によって、実は自分の体中の臓器を溶かし始めます。
ゆえに怒らないほうがいい、というのが私の結論です。観念論や精神論、人格論の話ではなく、自分で自分の体を痛めて、損をするからです。本当に損得勘定がわかってくると、腹を立てなくなる。私はもう長い間ずっと腹を立てていません。「人格者」を目指して腹を立てないのではなくて、自分の身にとってものすごく損だとわかっているので、損得勘定で腹を立てないようにしてきました。
自分の周りの人に対して、ひどいことをしてるじゃないか、間違ったことをしているじやないか、と言って腹を立てる人がいますが、それはものすごくバカな話です。例えば、狭い道に駐車している車の横をすれすれに通らなくてはいけないというときに、「なんでこんな所に停めてるんだ」と言って怒っている人がいます。よく考えてみると、この違法駐車をしている車の持ち主はそこにはいなくて、どこかでコーヒーなんか飲んでいて、とても楽しく過ごしているからしれないのに、それをイライラして「コノヤロー」と思った人が、結果的に五臓六腑を溶かして体を痛めていくなんて、バカな話ではありませんか。従って、腹を立てないほうが損得勘定としては利口だということです。ハブはとても良いことを教えてくれています。ハブは脅威であるとともに、この世にいなくてはならない存在だったのかもしれません。

自分に怒るだけの正当な理由、正義があるとしても、損得勘定を使えばサラッと流せるんだな。
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